極東建設株式会社
3次元で開発の手戻りをなくし、3次元を活用することでさらに磨きをかけた
極東建設株式会社様は沖縄県那覇市に本社を置く潜水作業の施工会社です。
作業効率化と潜水士の安全性確保の目的で、建設機械のバックホウを水中で使えるように自社開発されています。
沖縄発の最新土木技術が、水中工事に大きな変革をもたらしつつあります。
課題:
2次元CADでは、複雑な機器レイアウトができない。そこで、発注した部品が届いてから現物レイアウトしていた。
この方法では手戻りが多く、期間も長くかかりすぎる。
ソリューション:
SOLIDWORKSを2ライセンス導入。機器レイアウトをCAD上で行ってから、部品を発注できるようになった。
レイアウトがわかっているので、部品製作中に他の作業を並行して進めることもできる。
CADは、土木用2次元CADとSOLIDWORKSを併用しているが、干渉チェック、浮力計算、重心・重量バランスの確認ではSOLIDWORKSが必須だ。
結果:
・3次元CADで干渉確認が確実に行えるので部品到着後の手戻り作業がなくなり、製作時間のロスが大幅削減
・シャフト式水中掘削機T-iROBO UWの開発では、昇降する内側フレームと掘削するために回転する外側フレームとの複雑な干渉が詳細にチェックできた。
"建機メーカーではなく、施工会社である当社が、なぜここまで一生懸命に水中バックホウを開発する のか。 効率化と安全性は潜水士にとって一番の利益であるからです。ユーザーが社内の人間で、直接のフィードバックをもらえるのは、本当にやりがいがあります。 水中で命を張っている潜水士から『それじゃ使えないよ』と言われると必死になって知恵を絞り、また新しいアプローチを見つけ出す、その繰り返しです。"
潜水作業の効率化と安全確保を目的に「水中バックホウ」を開発
沖縄県那覇市に本社を置く極東建設株式会社は、水中施工会社として、港湾・漁港などの土木工事を行ってきた。
1971年岡山で創業、1972年の本土復帰で岸壁・防波堤工事が増加した沖縄へ本社を移転、「極東潜研株式会社」という旧社名にも表われているように、社員は現在もほぼ全員が潜水士免許を持つ。
沖縄の海は荒れる。台風に加えて、2月の季節風が引き起こす波は、何十トンもある消波ブロックを陸に打ち上げるほど強い。工事の途中で海が荒れると、時間をかけた石組みは崩れてしまい、最初からやり直すことになる。作業効率を高めて施工時間を短くしたい、海が荒れる前に施工完了したいという欲求が強かった。
「当社創業者である故・古松伸茂が、作業効率化と潜水士の安全性確保のために、水中バックホウの開発を決断したのです」と、マリン開発部長の上山淳氏は語る。
バックホウとは、建設業界で最も普及している建設機械「油圧ショベル」の日本語名称である。古松氏は、アタッチメントを取り替えるだけで、土を掘ったり物を運んだり多様に使える点に目をつけ、これを水中で動くように作り替えた。
1983年に完成した水中バックホウを与那国島の防波堤基礎工事に使ったところ、潜水士による人的作業の効率を各段にあげることができた。水中で使える建機の開発は先例がなく、容易ではなかった。自然環境に耐え、圧力や防水への工夫が必要でトライ&エラーを繰り返した。
1995年には、電動油圧式水中バックホウを開発した。当初は油圧ポンプとそれを動かすエンジンを船上に設置し、船と機械をホースでつなぐ必要があった。油圧ホースから電気ケーブルへ変え施工領域が飛躍的に広がり、水中バックホウの適用案件も大きく拡大した。
次に、2001年から2010年にかけて、水陸両用バックホウの開発に注力した。
水陸両用バックホウは、陸、浅瀬から深海までを1本につなげなければならない海底ケーブルのトレンチ(溝)掘削、満潮時には船が入れない橋の下、干潟などの工事に活用されている。
水中バックホウでは搭載していなかった「エンジン冷却装置」を搭載することで、水深1.5mより浅い水際でも使えるようにした機種である。さらに、駆動部分を船の上で交換できるようにして、1台で水中・水陸両方に対応できる機種も開発した。
そして、2011年7月には、新しい水中作業機および水中作業方法について、大成建設株式会社、株式会社アクティオ、そして極東建設の3社で共同特許を取得した。極東建設はこのプロジェクトで、シャフト式水中掘削機T-iROBO UWの水中掘削部を製作し、2013年から京都府・天ヶ瀬ダムで行われた工事の施工も担当した。
シャフト式水中掘削機T-iROBO UWは、超音波画像をモニターで見ながら、オペレータは潜らずに遠隔操縦できるダイバーレスの画期的な水中バックホウの派生機械である。船上に設置された運転席から、水中の無人バックホウを操作する。
視覚情報、音声情報、マシンガイダンスの情報によってオペレータは直接潜っている感覚で操作できる。潜水士が潜らないというこの施工方法により、安全性が向上し、さらに施工費用・工期ともに圧縮できた。この画期的なプロジェクトは、開発段階から施工に至るまでに、4つもの表彰を受けている※。
水中バックホウは、現在、極東建設で約10台、全国の提携施工会社で約20台が稼働中だ。
※日本エンジニアリング協会のエンジニアリング奨励特別賞、日本建設機械施
工協会の最優秀賞、土木学会の技術開発賞、ダム工学会の技術開発賞の4つ
複雑な機器レイアウトをCADで設計できるようになり、手戻り激減
水中バックホウ製作は、陸上用バックホウを建機メーカーから購入することから始まる。これを分解し、利用できる部品は流用しつつ、独自に開発した部品と組み合わせたりする。水中作業用の運転席など、一品もので、他に流用できないものは、部品の製作にも苦労する。また、精密加工は下関の会社へ依頼するため、待ち時間が発生する。
設計には、土木用2次元CAD「BV-CAD」を使用してきた。
さまざまな機器を搭載するスペースを、入り組んだ形状のなかで的確にレイアウトするのはむずかしく、図面を見てもわからない。そのため結局、現物を機器に搭載して目視確認していた。つまり、発注した部品の到着を何週間も待ち、商品が届いてからレイアウトしていた。
「精密機の部分はこれぐらいの大きさでできあがってくるだろうと予想して、筐体を用意して待っていたら、届いた精密機と筐体が合わなくて四苦八苦したこともあります。納期と手戻りという2つのロスを小さくするには、設計の3次元化が必須であると考えました」と上山氏は言う。
量産ではなく1品ものであるからこそ、製作の手戻りを少なくすることがきわめて重要だったのだ。
「3次元CADの選定で最優先したのは、これから入社してくる若い人が迷うことなく使えるものがいいと感じました。参考までに沖縄高専に問い合わせたら、SOLIDWORKSを教材にしているということでしたので、迷わずSOLIDWORKSを導入しました。」と上山氏はにこやかに語る。若手を育て、30年余にわたって培ってきたノウハウを継承していくための道具としても、SOLIDWORKSは期待されたのだ。
現在は、土木用の2次元CADとSOLIDWORKSの両方を駆使している。陸上用バックホウの主要部品を分解してスケッチ行い、2次元CADで概要を描く。少しずつSOLIDWORKSへデータを取り込んで3次元化する。仕様やレイアウトの検討は、2次元と3次元の両面で行う。浮力計算、重心・重量バランスの確認はSOLIDWORKSの得意とするところだ。
これまでと大きく異なるのは、レイアウトを見定めた後で、部品を発注できるようになったことだ。また、届いた部品を組み立てるにあたって、糸満工場では3次元図面を活用している。
「シャフト式水中掘削機T- iROBO UWの開発では、SOLIDWORKSが大変役に立ちました。ダム再開発の現場では、湖底に水中バックホウを停止しておくことができません。
そのため、船の上からシャフトを旋回させながら下ろして固定し、シャフトに沿ってバックホウを昇降させるという構造にしました。この昇降する内側のフレームと、回転する外部のフレームとの複雑な干渉が、SOLIDWORKSではたちどころにチェックできたのです」と上山氏は説明する。
機器のレイアウトを、CAD上で事前に確認できるようになったことで、部品が出来上がってくる前に、先行して進め
られる作業領域が格段に増えた。操作性や安全チェックもSOLIDWORKSで行える。組付部品が届いてからの手戻りが
ほとんど発生しなくなった。
海はもちろん、ダムでも河川でも、水のあるところの工事はおまかせあれ
今後の開発テーマは、情報化施工、無人化施工である。遠隔操縦のバックホウには、超音波カメラ、GPSなども搭載していこうと考えている。
水陸両用バックホウも用途が広がっているだけに、技術をさらに磨き、メンテナンス費用を含めたコストダウンを図っていく。また、バックホウに限らず、土砂搬出機などの水陸両用機を開発すれば、さらに効率が上がるという意見も出ている。
離島の海の中で何十年もノウハウを積んできた極東建設だが、これからはダムでも河川でも、水があるところならどこでも施工を引き受けられる会社へと大きく飛躍しようとしている。